ミッツィ

    子を産めなかったことで自己憐憫に浸っていて、ふと思い出した。日頃親しくつきあっている友達のうち、3組5人が子なしだ。オージーとフィリピーナのロブ&ジェヴィ、リバプール出身のミッツィ、そしてオージー夫妻のクリス&ジュリー。

    ミッツィは、40代後半のギリシャ系イギリス人。アイルランドの血も入っているので、小柄で黒髪だが肌が白く緑色の目をしている。ものすごく明晰で独立心が強くて、でもどこか破綻していて、魅力的な女性だ。エイズ予防専門の社会科学者で大学で教鞭をとる傍ら、南アフリカで実地活動をしたりの研究を続けている。

    リバプールの下町で移民でシングルマザーのお母さんに育てられた。ミッツィは実は30代まではウェイトレスだの事務員だの、どうでもいい生き方をしていた。ある日いきなりアホくさくなって、「私って頭いいんだしと思って」大学に入り、進路をガラッと変えたそうだ。

    今でも、政治や社会を酒の肴に、鋭い舌鋒の合間にスカウズ(リバプール訛り)のお下品なフレーズが飛び出す。私が男だったら惚れていたに違いないそんな彼女がなぜ独身なのか、訊きたいのは山々だが躊躇している。ただ、彼女が仕事帰りに何かの用事でちらっと寄った時なんかに「よかったらワインでもどう? ごはんも、ちょうど作ってたから食べていく?」と声をかけると、喜んで入ってきてくれる。飲みっぷりは私と負けず劣らず、やっぱりちょっとは寂しいのかなと思う。

    独立を何より尊ぶ彼女は、うちと同じ宅地の綺麗な中庭つきフラットを買って一人で住んでいる。時々友達が泊まりに来たりはしているが、誰とも一緒に暮らす気はないと言う。今は近くに住んでいるお母さんが唯一無二の親友で、休暇には一人で世界中の秘境を歩き回っている。学者とはいえフリーランスの立場は決して安定したものではなくて、仕事の狭間にはうちでワイングラスを傾けつつ心配顔を見せることもある。

    だけどエイズ関連での彼女の業績は、はっきり言って人類の幸せに大きく関わること。彼女と知り合えて心から喜んでいる人は私だけでなく、ずいぶん大勢いると思う。子供を産まない女性には生きる資格がないとどこかの政治家が言ったからって、ミッツィの価値が一ミリも減りはしない。‥‥私についても同じくとは言い難いのがツラいところだ。

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    シカ

    Author:シカ
    夫のカエルとともにヨーロッパに住むシカです。シカは日本生まれですが、ここ20数年イギリス、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ドイツ、振り出しに戻る(イギリス)と流れてきました。カエルはフランス生まれです。詳しくは自己紹介ページへ。

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