人種の不条理

    朗らかだったMさんが沈んだ表情をしている。イギリスが嫌になってきた、と。

    この間観た映画で、病院でインド系イギリス人の主治医に診断を受けたご婦人が憮然として「イギリス人のお医者さんを呼んで」と言う場面があった。「もちろん」と主治医は言って、エジプト系イギリス人の医師を連れてきた(プッ)。

    アンゴラ系スペイン人のMさんは、ロンドンで医療関係の仕事をしている。仕事の場で心ない言葉を浴びせられたりするのかもしれない。あるいは街で、ステレオタイプな決めつけを受けることもあるはず。それでも華麗に超越しているかに見えた彼だが、いろいろ重なったりすれば、いつもは流せていたことが心に刺さってきたりもするだろう。

    「嫌になったなら、文句言ってるよりどこか他を探したらいい‥‥ってわけにもいかないか。でも嫌いな国に住み続けるのは悲しいね」と夫は言う。「それは違うんだな〜」と私は言いかけて、ああ、夫に分からせる方法はないんだと思った。人種差別の痛みは、されたことのない人にはどうしてもわからない。

    人種差別の程度でいえばイギリスはヨーロッパの中では軽い。大半の、少なくとも教育を受けた層のイギリス人は、過去の負い目もあって、ドイツ人やフランス人のようなあからさまな優越感をもっていない(あっても露見させることは少ない)。移民の歴史が長いイギリスでは、スペイン人や北欧人のような無知ゆえの剥き出しな好奇心もない。さらにロンドンでは、イギリス白人のほうがマイノリティーといえる地域も多い。

    それでも、だ。肌の色が白くない人は、その濃度と性別と年齢層に従って、いろんな目に遭う。女性より男性、年輩者より若者、そして肌の色が濃ければ濃いほど、経験の不快度も上がる。色白の極東人で中年女の私はMさんほどの目には遭わないが、不愉快な思いをしたことは数知れない。どうしても差別を避けたければ、肌の白い友達や家族と常に一緒に行動しなければならなくなる。

    暴力か、自由の剥奪か。究極の悪選択を常に迫られることの理不尽さ、不当さ、残酷さは、気が狂いそうな痛みをもたらす。軽傷の私ですら喚いたり泣いたりしたことがある。30代黒人男性のMさんがどんな思いで生きているかなんて、体験したことのない人に理解しろと言っても無駄なのだ。Mさんの日本人妻も、自分の経験から想像はできても完全にはわかってあげられない夫の痛みを、側で見ていることしかできないだろう。

    人種、国籍。夫婦の間でも越えられない壁はある。国際結婚は、壁の存在を認めた上で愛を失わない努力の積み重ねでもある。

    テーマ : 国際結婚
    ジャンル : 結婚・家庭生活

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    Re: 白い人、黄色い人

    >血はみな赤色をしているというのに。

    それ、ありますねー。

    1991年にフィンランドで(当時のフィンランドでは白くない人はほとんど見かけませんでした)、バスに乗っていたら後ろの子が座席に立って私の髪をしつこく引っ張るのです。黒い髪がよほど珍しくて本物か確かめたかったようで。あんまり痛いので振り向いて、その子の母親に「お子さんに、やめるよう頼んでくれませんか。痛いんです」と言いました。すると母親はビックリして、私の言うことを理解するのにかなり時間が掛かった様子でした。

    あんまり姿が違うので、叩けば痛いということすら想像できないブロック状態に陥るんですね。神経ブロック注射って言葉を初めて聞いた時、このことかと勘違いしましたv-12

    心の折り合い、どのように?

    最近まさに「夫婦の間でも越えられない壁」として、夫との人種の壁を痛感し、他の国際結婚したみなさんはどうやっておりあいをつけているのだろう?とネットを漂流中、こちらを拝読しました。最後の一文、ずっしりと響きました。

    ご挨拶が遅れました。はじめまして。
    当方、スウェーデン在住、研究職、夫は他のヨーロッパ国出身です。

    仕事上の諸々の他に差別的な不快な出来事が重なると、処理できる以上のダメージが累積してく感じ、まさに経験中です。文中のMさん、他人事と思えず色々想像してしまいました。スウェーデンでは不快な出来事は頻繁ではないのですが、やはりたまにあるとダメージきます。

    そんなとき、自分の辛さをどうしても伴侶に分かってもらえないと、なおさら辛いです。ダメージ倍増。街中などで不快なことがあって心にダメージを負ったのを、旦那様にご理解いただけないとき、シカさんの場合どんな風に折り合いをつけますか?(シカさんの旦那様はそういうダメージにご理解ありますか?)何か心を元気にする良い方法があったらお願いします・・・。

    Re: 心の折り合い、どのように?

    サワークリームさま

    そうですね‥‥。私も、イヤな目に遭って頭から湯気を立てて帰宅した時なんかに夫に妙に冷めた反応をされて、「それはひどい!」って一緒に怒ってくれたらと思うことはあります。そんな時は「すごいイヤだったの!」と言って、冷めるのを待ちます。

    どんなに優しい人でも愛している相手でも、本当に他者の身になってみることは難しいので、彼には分からないということを責めずに受け入れようと、頭では考えます。夫も、私が傷ついている理由に100パーセント共感できなくても、傷ついてるのは分かるので、その事実を抱きしめてくれる感じですね‥‥。

    昔むかし入院生活をしてた頃、まだ若い准看護師が時々私のベッドの傍に来て座ってくれました。彼女が伏し目がちに「シカちゃん、辛いんだね。私には、分かってあげられないけど」と言った言葉に、他のもっと経験豊かな医師や看護師のどんな励ましより心癒されたのを思い出します。

    Re:Re: 心の折り合い、どのように?

    シカさん、

    通りすがり者の質問に早速ご回答、ありがとうございます。

    「どうして私の立場に立って理解できないの!?」と無いものねだりしてダメージを増幅させるより、傷ついてることは分かってくれている(分かろうとしている)ことのほうが大事だ、ということですね。

    「本当に他者の身になってみることは難しい」ということ、冷静な時は頭では分かっていても、心が傷ついているとどうにも腑に落ちません。が、目標はどうやらそこのよう。これがちゃんと腑に落ちればもっと冷静に、素直に、相手が寄り添おうとしていることに気付いて感謝する心境になれそうです。

    素敵なご回答、ありがとうございました。

    Re: Re:Re: 心の折り合い、どのように?

    サワークリームさん、

    言い忘れたんですが、なにがイヤって、「それは君の思い違いじゃないの? 本当はそうじゃなくてこうだったんじゃないの?」的な rationalisation。男って解決屋なんですよね。ただ気持ちをわかってほしい時に、ああすればこうすればと解決策を提示してくる。

    そういう生き物なんだと諦める一方で、「アドバイスはありがとう。でも私はアドバイスより、辛かった気持ちをわかってほしい」と言葉で伝えることも有効じゃないでしょうか。できるだけ落ち着いた表情で(コレ大事)。

    Re:...:Re: 心の折り合い、どのように?

    シカさん、

    「それは君の思い違いじゃないの? 本当はそうじゃなくてこうだったんじゃないの?」
    そのやりとり、私のところでもうんざりするほど何度もありました。で、私の反応は「アナタは自分が経験したことが無いからわからないのよ!ちょっとは想像しようとすることができないの?」という、駄々っ子みたいなものでありました・・・・。
    昨晩もこういう感じの口論をする夢を見てしまったという・・・(呆)。

    辛かった気持ちをわかってほしいということを、伝えることから始めます。今晩にでも、「できるだけ落ち着いた表情で」。

    この種の葛藤に共感していただけて、しかもアドバイスもいただけて、大分気分的に楽になりました。悩んでるのは自分だけじゃないし、打つ手もあるんだと。

    具体的なご指南、どうもありがとうございました。<(_ _)>

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    Go Dutch

    シカさん、いろいろな経験をなさっているのですね。そう言えば、僕も大学生の時、英会話の能力が無いのに、無謀にも、外国人を東京を案内する企画に参加したことがあります。そのとき、詳細は忘れたのですが、あるオランダ男性に、「私が代金を払う」と英語で言われました。しかし、僕は割り勘のほうが良いと思い、「Go Dutch」と言ってしまいました。すると、オランダ男性は、「Go Dutch means・・・」と何か説明していました。(私は読解力がないので、何を言っているかよく分からなかった)。今、考えると、Go Dutch という表現は、イギリス人のオランダ人に対する偏見が入った言葉だろうから、もっと、別の表現をした方が良かったかなあ と思いました。

    Re: Go Dutch

    takereorinaさん、

    Dutchといえば、笑い話のような本当の話があります。昔から日本に、ダッチワイフという代物があるのをご存知ですか。空気を入れて膨らますと女性の形になる人形です。

    夫と結婚前にアムステルダムへ遊びに行った時のことです。アムステルダムといえばその手の店もたくさんあります。それでふとお思い出して、「ダッチと言えばね‥‥」と彼にこの話をしたら矢鱈にウケて、「ちょっと入ってみて、ダッチワイフってあるか聞いてみるよ!」とノリノリ。そして彼は次に見かけた店に入って行ったのです‥‥。そして店員のオランダ人に、"Do you have a Dutch MOTHER?" と訊いてしまったのだとか。オランダ人はこの人相のいいフランス人客を真面目な目で見つめた後、"Yes I do, as a matter of fact."と答えたそうです。

    しかし単語を間違えなかったとしても、店員が既婚者であれば答えは同じだった確率は高いですね。

    男って解決屋

    こんにちは。シカさんって、男性をよく理解してますね。僕も"解決屋"ですね。あと、女性について、理解しかねる点があります。ある不確かな情報を得たとき、男性なら、それが事実かどうかわからないと判断した時点で、そこから話は進みません。しかし女性どうし(すべての女性がそうかは知りませんが)は、そこから、「えー、やだー、それって〇〇じゃん!」「でしょ!、それは、🔵🔵だよねー。」とどんどん、話が進んでいきます。男性から見ると、「おいおい、前提が確かじゃないのに、話を進めても、しょうがないだろっ!」とツッコミたくなるのですが・・・。

    Re: 男って解決屋


    takereorinaさん、

    > えー、やだー、それって〇〇じゃん!」「でしょ!、それは、🔵🔵だよねー。」とどんどん、話が進んでいきます。

    私はそういうノリがないので分かりませんが、周りを憚って言わずにいた“事実”を誰かが口に出したので共有を楽しんでいるのでしょうか?

    男性は論理的で女性は感覚的というのも、どこまでが生物学的な特徴なのか文化的に刷り込まれるものなのか、判然としませんし。日本に限らず、男性像より女性像の方が型に嵌められ人為的に作られている文化が多いとは思います。程度や質の差こそあれ。
    プロフィール

    シカ

    Author:シカ
    夫のカエルとともにヨーロッパに住むシカです。シカは日本生まれですが、ここ20数年イギリス、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ドイツ、振り出しに戻る(イギリス)と流れてきました。カエルはフランス生まれです。詳しくは自己紹介ページへ。

    引用・転載は原則として歓迎ですが、事前にご一報ください。どのような論旨・目的での引用・転載か、把握しておきたく存じます。

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