戦友(RIP)

    イヴォンヌが昨年クリスマス直前に亡くなっていたことを今日知った。

    トロンハイムのメソジスト教会で知り合いだった、トーゴ(西アフリカ)人の女性だ。イヴォンヌと私は“パラレル移民”だった。同年齢で、ノルウェーに移住したのも同じ1995年。市運営のノルウェー語クラスでも一時期同級だった。

    でっぷりしたアフリカン・ママという感じの人だった。初めて会った33歳の時、40代に見えた。最後に会った時も40代に見えた。同い年だから52歳で亡くなったわけだが、外見はおそらく40代のままだったろう。

    教会で私は奏楽を、彼女は掃除をしていた。背景も体躯も肌の色も職能も対照的な二人だったが、教会員のある人々にとって、私たちは同じ“生活に逼迫して小銭稼ぎをしている移民”だった。私のオルガニスト契約をめぐる交渉が炎上した時、彼らは「あなたはイヴォンヌとどこが違うのか。なぜ特別待遇を望むのか」と言った。結局、私のそれまでの待遇は違法であり教会は正規雇用を義務付けられたのだが、どこがどう違法なのかを私が自力で調べ上げて論破するまでの間、あの人たちの鼻息は荒かった。クリスチャンの奉仕精神にかこつけて。

    そんな時、イヴォンヌは鼻歌を歌いながら汚いモップを動かしていた。アフリカと北欧では掃除の観念が違うらしく、時々彼女にモップを洗うことを“指導”している人がいた。

    イヴォンヌは若くして結婚し3児をもうけたが、夫はトーゴでクーデターが起きた1992年にノルウェーに亡命した。イヴォンヌは3年後、ノルウェー定住者の家族という資格で子供を連れ移民してきた。一見至れり尽せりのノルウェーの難民政策にはじめは喜んで頑張っていた夫は、次第に幻滅し自暴自棄になっていった。

    私が前夫を離れた2000年、イヴォンヌも離婚した。同じ頃、なんと福祉事務所で出くわしたこともある。二人とも、生活保護を申請しに来ていた。もっとも彼女は初めてではなさそうだった。その後イヴォンヌは猫の額ほどの店舗を借りてアフリカ料理店を開き、私は大学で日本語を教える仕事にありついた。

    彼女の店は長続きしなかったが、なんとかやりくりしているようだった。教会でも笑顔が増え、彼女とまともな話ができる人は少ないものの、洗練には程遠い腹ごたえのある料理を振舞ったり、熱烈なダンスを披露したりで人気者になっていった。私はといえば、親しい友は何人かできたが誰にも好かれるというタイプではなく、来る週も来る週も黙々とバッハを弾いていた。
    yvonne.jpg   Michan.jpg

    読み書きもできずフランス語話者の彼女には、ノルウェー語習得は急を要したが難儀を極めた。ノルウェーでは英語がよく通じるがフランス語のできる人は少ない。逆に、英語話者の私はそのままで事足りてしまうため、ノルウェー語習得に差し迫った必要を感じなかった。そんなわけで二人のノルウェー語力はどんぐりの背比べに終わった。

    私がフランス人と出会ってノルウェーを去る時、イヴォンヌはやはり鼻歌を歌いながら挨拶のハグをした。同じ苦労をしたね、お互い幸せになろうねというような、わけ知り顔の微笑みを浮かべていた。

    太っていたから、心臓に負担がかかっていたんだろう。何の前触れもなく、初孫が生まれ、ノルウェー国籍を取得した矢先の死だった。

    テーマ : ヨーロッパ
    ジャンル : 海外情報

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    No title

    シカさん、こんにちは

    >クリスチャンの奉仕精神にかこつけて
    ここは大受け(笑)
    ボランティアと言いながらほぼ強制てのがよくありますよ。
    こういう「善意を出せ」の押し売り(押しつけ)は困ったものです。

    移民とは

    >「あなたはイヴォンヌとどこが違うのか。なぜ特別待遇を望むのか」と言った。

    昨夜、ふとシカさんに呼び止められるように記事を読みました。すでに就寝後だったのに、大切なことが書かれているのよ、と声が聞こえた気がして。

    移民とは、自分の置かれた立場とは、ずっと考えていました。その国の福祉行政を本当に知りたいのなら、移民政策や移民の現状を調べればいいと思うのです。

    あなたはイヴォンヌとどこが違うのか・・・
    この言葉を投げかけてきた人たち、シカさんがイヴォンヌと一緒でも、違っても困るでしょうに・・・

    Re: No title

    MKさん、
    人格を持ち出して“善意”を巻き上げようとするなんて、もう恐喝ですv-8
    近種の反則で、振られた男(女)の逆恨みってのがありますなあ。「俺はお前を愛してるのに何でお前も俺を愛さないんだ」ってやつ。くれと言われて出せるもんなら出しますけどね、愛ってそういうもんじゃないんで。

    Re: 移民とは

    MGBさん、
    移民政策を見てわかるのはその国の福祉の考え方もですが、国としての自己像じゃないでしょうか。これ考え始めるとどの国も人でなし〜みたいで、眠れなくなるので適当なところでご飯でも食べましょう。

    Re: 移民とは

    再びMGBさん、

    > あなたはイヴォンヌとどこが違うのか・・・
    > この言葉を投げかけてきた人たち、シカさんがイヴォンヌと一緒でも、違っても困るでしょうに・・・

    そうなんです。
    同じでもあり大違いでもあり、自分でもそれが分かれば世話ないよと思いました。
    ノルウェーで会う人ごとに必ず訊かれる質問があって、
    "Hvorfor har du kommet hit? Hva gjør du her? Når skal du reise hjem?"
    「なんで来た、ここで何してる、いつ帰る?」
    そんな、生きとし生けるものの究極の問いを、気軽に訊かないでよ‥‥。
    最後の頃にはスカッとどっか抜けてしまって、
    「その答えは42」ってかましてました。
    The Hitchhiker's Guide to the Galaxy(邦訳題『銀河ヒッチハイク・ガイド』)の The Ultimate Question of Life, the Universe, and Everything の答えです。
    プロフィール

    シカ

    Author:シカ
    夫のカエルとともにヨーロッパに住むシカです。シカは日本生まれですが、ここ20数年イギリス、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ドイツ、振り出しに戻る(イギリス)と流れてきました。カエルはフランス生まれです。詳しくは自己紹介ページへ。

    引用・転載は原則として歓迎ですが、事前にご一報ください。どのような論旨・目的での引用・転載か、把握しておきたく存じます。

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