フランスへ行かないクリスマス

    夫の両親(二人とも90代半ば)がいよいよ日常生活もままならなくなってきた。この1年は遠くに住む6人きょうだいが交代に訪れ、訪問介護を手配したりしてきた。夫もつい先週一泊で様子を見に行ってきたところだ。ご本尊の老父母がもはや子供や孫の集まるクリスマスに参加できる状態でなくなった今、過去40年間に初めて、一族が集わないクリスマスとなる。

    夫はなんだか寂しそうだ。「老父母がいなくなったら、もうきょうだいで集まることもなくなるのかな」と言う。まあ、そうだろうねと私は思う。私だって、両親がいなくなったら日本へ行くことも少なくなるだろう。これまで世界中どこでも住めるとばかりに身軽に生きてきた私たちだが、現実に故郷が消失する瞬間を間近に控えて、ちょっと怯えている。

    15歳の時に書いた『遠洋漁業』という詩があった。

    遠洋漁業をしているのです、食事には釣った魚を食べます、今日はお天気もよく、どこまでも穏やかな海原が広がっています、まるで世界中が一つの海になってしまったかのようです、食べる魚にはこと欠かず、海はたおやかで、ただ、時々、いつ出てきたのかも忘れてしまった故郷の島は、もうとうになくなっていて、帰るべき港はどこにもないのではと、ふと心配になるのです

    というような詩だった。

    夫の旧友でドイツに住むスコットランド女性ローズマリーの夫ジムが一昨日亡くなった。彼に最後に会ったのは私たちがロンドンに戻るすぐ前だった。人は必ず死ぬ。でも誰かを残して死ぬのはとても悲しい。ローズマリーは異国で障害児を抱え、30年を共に生きた夫に先立たれ、これからどうするのだろう。私には、残す人はいない‥‥だろう、たぶん。

    私と夫は、これから死ぬまでの間、フランスに住むかもしれない、イギリスに残るかもしれない。どこへ行くにしても、二人一緒にいようねとは言っている。帰るべき港は、互いしかないのだから。

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    シカ

    Author:シカ
    夫のカエルとともにヨーロッパに住むシカです。シカは日本生まれですが、ここ20数年イギリス、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ドイツ、振り出しに戻る(イギリス)と流れてきました。カエルはフランス生まれです。詳しくは自己紹介ページへ。

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