待降節のろうそく

    ノルウェーで教会のオルガン弾きをしていた頃、クリスマスの4週前から始まる待降節はいつも同じ前奏曲を弾いていた。軽やかなペダルに乗ってフルート音が奏でるバッハのコラール前奏曲で、「目覚めよと呼ぶ者の声がする」という意味の、イエスの少し前に生まれた洗礼者ヨハネの言葉に基づく旋律だ。

    クリスマスはヨーロッパの人々にとって暗くみじめな季節に訪れる光の祭典。イエスが実際この季節に生まれたという確証はどこにもない。ヨーロッパがキリスト教化された時期に、降誕祭が古来ヨーロッパで祝われていた冬至祭といっしょくたにされたというのが定説だ。来るところまで来たこの世に、嬰児といういう形で希望の小さな光が宿った、という意味のお祭りだ。

    バッハの静かな喜びに満ちた曲は待降節第一日曜日にぴったりで、雪の夜明けにスキップで歩くような気持ちで弾いていたし会衆もそんな気持ちで聴いてくれていたと思う。

    それから Tenn Lys...(蝋燭を灯しましょう)というノルウェーの賛美歌を歌う。誰のために灯しましょう、という部分が毎週1節ずつ増えていく。その中に、家のない人のために、泣いている人のために、という節があって、離婚したてで文字通り路頭に迷っていた時期の私は涙目で、数年後には感謝に満ちて弾いていた。

    いつも同じ、というのがまた大事な点で、クリスマス前後の礼拝という日本人にとっては初詣のような行事に、ヨーロッパ人は目新しいものを求めてはいない。The same procedure as last year なのがミソであって、離婚しようとも、子供がグレようとも、家が焼け落ちようとも、教会では同じ曲が流れ同じ(ような)顔が見られることで、それでも日は昇るという安心感を得るのだろう。

    私は宗教はお年寄りのためにあると思っている。死を見据えるお年寄り、お金も滞在許可もない外国人、病気だらけで友達もいない独身者。そういう人の麻薬ではなくて居所。べつに寝床や食事やカウンセリングを常時提供しろという意味ではない(私の親の家はそういう機能も時々果たしていたが)。何があっても、どんな人にも、いってしまえば関係なく、日はまた昇るといい続けるのが教会(寺)というものだ。

    だから、元気で考えなしで自信満々の若者たちがゴスペルソングでクリスマス礼拝をやりたいと言った時にはオルガン弾きの私は猛反対した。教会の次代を担う若い世代の声を聞かないとは何事か、と私を批判する人も大勢いたけど、私の考えは今も変わっていない。「光なき所に光を」というクリスマスのメッセージは、光がない状況を知らない人よりも、涙を流す人たちのためにあると思う。

    コメントの投稿

    非公開コメント

    我が家のクリスマス

    目新しいものを求めていないヨーロッパ人を知る機会は、私の人生にとって好機だったとよく思います。昨夜、我が家はクリスマスの飾り付けをしました。見慣れたリビングが一段落ち着いたようにも思います。

    私はこの時期になると鎮魂という二文字が頭に浮かびます(日本でもアメリカでもそうした気持ちにならないのですから、土地の力、国の歴史を考えないわけにはいきません)。

    No title

    MGBさん
    11月の万霊節のあと数週間で待降節が始まるわけですから、晩秋から冬至へと至る今は死と再生の季節ですね。北欧にいるとよく分かるのですが、冬至を境に、文字通りの暗闇に光が少しずつ戻ってきます。緯度が低くあまり暗くならない日本のような土地では、ピンとこない感覚でしょう。オーストラリアの人なんて、どうなんでしょう????
    プロフィール

    シカ

    Author:シカ
    夫のカエルとともにヨーロッパに住むシカです。シカは日本生まれですが、ここ20数年イギリス、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ドイツ、振り出しに戻る(イギリス)と流れてきました。カエルはフランス生まれです。詳しくは自己紹介ページへ。

    引用・転載は原則として歓迎ですが、事前にご一報ください。どのような論旨・目的での引用・転載か、把握しておきたく存じます。

    最新記事
    最新コメント
    カレンダー
    プルダウン 降順 昇順 年別

    09月 | 2017年10月 | 11月
    1 2 3 4 5 6 7
    8 9 10 11 12 13 14
    15 16 17 18 19 20 21
    22 23 24 25 26 27 28
    29 30 31 - - - -


    カテゴリ
    メールフォーム

    名前:
    メール:
    件名:
    本文:

    リンク
    フリーエリア
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR