メシウマの国

    「BBCでサンセバスティアンのことやってるよ!」と夫の嬉しそうな声。美食の地として絶賛発売中のスペインバスク地方の紀行番組だった。地酒チャコリ(二日酔い必至)、ハモンイベリコ(蝋状に酸化した脂が醍醐味だとか)、オリーブ油の池に浮かぶ数々の食材‥‥。

    バスク料理は日本料理に似て、あまり香辛料を使わず手もかけすぎず、素材の持ち味を生かすのだそうだ。要するに、すべて“にんにくあぶら風味”である。私もはじめの頃は物珍しくて何でも美味しく感じたが、胃が受け付けなくなるのにひと月かからなかった。サンセバスティアンにおける問題は、バスク料理が不味いことではない(どっちかというと美味しい)。バスク料理しかないことである。

    およそメシウマとされる国々は、中国でもイタリアでもフランスでも、そういうものかもしれない。自国の食べ物が美味しいのにわざわざ他の料理を試そうとは思わないのだろう。イギリスのようなメシマズ国では、自覚と反省に立った謙虚な姿勢で外国料理を無節操に受け入れ、おかげでロンドンはヨーロッパ有数のメシウマ街になっている。イギリス料理さえ避ければ。

    その点日本(特に東京)は特殊で、日本料理も国際級に美味しいとされる一方で、ナンチャッテではあっても世界各国の料理が普及している。そういう変わった食文化で育った私は、サンセバスティアンでしばらく過ごすと、たまには美味しいパスタでも食べたいなとか、タイ料理とかないかしらとか、思っちゃうのだった。

    外国にいると、和食が夢にまで出てくるほど恋しくなる時があるものだが、日本へ行って1週間もすると飽きてくる。天ぷら、うどん・そば、居酒屋、廻る寿司、カレー、ラーメン、丼。家畜クラスで旅する私の身分で手が届く範囲では、何でもかんでも醤油と味醂の味つけで、「こんなもんだっけね」という感じ。あげくスーパーで真面目なバンとチーズが手に入らないことを嘆くダメな在外邦人になってしまう。そんな時は、和食以外の選択肢があることが素直に有り難い。

    夫は私が目先の変わった料理をいろいろ作るのを喜んで食べてくれるが、結局“にんにくあぶら風味”が一番落ち着くようなので、それも三日に一度は出すようにしている。人間の味覚の幅は、育ったようにしかならないものだ。

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    シカさん、こんばんは

    わたしも日本食が食べたくて仕方なくなるときがあります。
    場所や景色も同じことで、日本に着くとなんでもない風景に感動するのですがしばらくすると、外国のグローセリーマーケットっぽい店に行くとホッとします。3年前にはアクシデントがあり日本滞在が予定より長引きました。用もないのにそのスーパーをブラブラする。何回も行きました。
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    シカ

    Author:シカ
    夫のカエルとともにヨーロッパに住むシカです。シカは日本生まれですが、ここ20数年イギリス、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ドイツ、振り出しに戻る(イギリス)と流れてきました。カエルはフランス生まれです。詳しくは自己紹介ページへ。

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