脱亜入欧ノイローゼ

    まずはこのクリップをご覧あれ。

    愛読しているブログにパリ症候群のことが書いてあったのでふと思った。そういえば、夏目漱石も留学先で鬱状態になり帰国を余儀なくされた‥‥パリならぬロンドン症候群だった。脱亜入欧ということが皮肉でも自虐でもなく叫ばれていた時代のこと、国費留学で頓挫した自滅感の重さは気の毒なばかりだ。しかし自滅感そのものは現代のアラサー“女子”も同じだろう。当人が自滅感より自分を踊らせた日本のマスコミへの他罰感をもつとしたら、同情しにくいけど。

    遠藤周作はリヨンで欧州白人社会に拒絶された痛みを通奏低音に独自の日本的キリスト教を論じた。森有正は、一旦は日本に戻りながら、けっきょく「遠ざかるノートルダム」と呟きつつパリで客死した。こういう真面目な日本人が、成熟を通り越して腐臭を放つヨーロッパにそれでも惹きつけられ爆死していく姿は、イカロスというか蜂の武藏のようだ。

    パリ症候群女子たちは30歳前後。日本で幻滅するに足る期間ハケンや会社勤めをして、“自分探し”にやって来る。消費生活面ではヨーロッパを凌駕してしまった日本から、形のない夢を求めて渡欧し、わりと簡単に夢破れて日本へ帰っていく。ある者は妙に和風に目覚め、ある者は僅かな体験を元に『住んでみた○○国』などしたため、ある者はひっそり日本男性との婚活に勤しむ。日本のマスコミの見てきたような嘘に踊らされた結果としたら、愚か‥‥ではある。

    私は日本の出版社で働いていた頃、どっかの馬の骨が締め切り前にぶっこむべく書き散らす駄文が、ただ活字媒体で拡散されているからという理由で魔法の説得力を獲得していく様を発信側から見ていた。受信側に、自分で情報を咀嚼する習慣がないのはやっぱり愚か‥‥だと思う。

    自分をエラい人と同列に並べるつもりは毛頭ないけど、渡欧の必然性という点で私など真面目な部類に入る。パリ症候群なんて立派な病気に至らなくても、居住国との折り合いは人間関係に似て、出会い〜憧憬〜恋〜結婚(移住)〜驚愕〜幻滅〜日常化〜諦観〜受容〜安定といった過程を辿る。過程のどこかで中断する場合も、もちろんある。私はドイツを好きになれないし、ノルウェーからも受容の一歩手前で退散した前科がある。でもヨーロッパという大枠では受容〜安定の段階にいる。たぶん、ブツブツ文句垂れながらもここで死ぬのだろうと諦め覚悟している。

    遠藤周作の対極かもしれないが、私は岸恵子のエッセイも好きだ。フランス人に見初められ結婚し、移住し、夫に捨てられ死なれ、日本に拠点を戻した一女性。彼女の見たこと、思ったことが、痛ましいほど正直で等身大の言葉で綴られている。

    テーマ : 海外にて日本を考える
    ジャンル : 海外情報

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    シカ

    Author:シカ
    夫のカエルとともにヨーロッパに住むシカです。シカは日本生まれですが、ここ20数年イギリス、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ドイツ、振り出しに戻る(イギリス)と流れてきました。カエルはフランス生まれです。詳しくは自己紹介ページへ。

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