誰かに向かって歌いなさい

    このところブログを書かなくなっていた。わりと頻繁にやりとりしていたブロ友さんが唐突にブログを閉鎖してしまったことに、自分でも驚くほどやる気を削がれたのだ。中学生の交換日記じゃあるまいしと思ってはみるものの、特定の読み手を想定せずに書くのって案外難しい。

    「誰かに向かって歌いなさい。誰でもいいから。目の前の人でも、意中の人でも、腹が立って仕方ない上司でもいいから」と、合唱団の新しい指導者マーサが言う。そう、口の中でモゾモゾ言っていたのでは、どんなに意味深い言葉でも聴き手には届かない。ところが不特定多数に訴えかけることは難しい。だから誰かを想定するのだ。

    ノルウェーの教会でオルガンを弾いていた頃、そこの牧師と私は歯がゆいプラトニック恋愛まがいの関係にあった。どちらにも、一線を越えるだけの悪徳も蛮勇もなかったので、何事もないまま10年が過ぎた。だけど私は確実に、彼に向かって弾いていた。そのせいで、正規の音楽教育も受けていない私の奏楽が妙に“感動的”になったらしく、見も知らない会衆(葬儀や堅信礼で初めて訪れた親族や、回り持ちで巡ってきた礼拝中継番組のディレクターなど)に熱い賛辞を受けたりした。件の牧師が転任していった後、後任者にはまったくラポールを感じなかった私の奏楽は、もとのガラクタに戻っていた。

    合唱団のマーサは、必ずしもウケがよくない。特殊学級の先生みたいなノリの前任者に、楽譜なんか読めなくて上等・音痴大歓迎と甘やかされてきたメンバーには、マーサの本気さについていけない人も多い。でも私は、素人集団だからこそ、技術を情熱が凌駕する可能性を引き出そうとする彼女の方向性はすごいんじゃないかと思う。それは、じゅうぶんに起こり得ることだから。

    ねこまくら

    一回でいいから、ねこを枕にして眠りたい。

    柔らかくて温かくてちょうどいいサイズで、私の頭の寝相に合わせてぐにゃりと形状を変えてくれる。

    一回で、ねこは死んでしまうだろう。

    見果てぬ夢とはこのことか。

    イギリス人の社交性、偽善、優しさ

    「イギリス人は口先ばかり」という悪口をよく聞く。確かに、言葉上手だけど行動を伴わない傾向はあるかもしれない。

    配管や電気の故障で職人を呼んで、時間通りに来た試しも簡単な仕事が一度や二度で終わった試しもないが、やたらと愛想はいい。京都の人の慇懃無礼 −「おぶづけ(お茶漬け)でもいかがですか」は「いい加減帰ってくれ」という意味で、イギリスのディナーの後で出る "Would you like a cup of tea?" とそっくりだ。

    しかし人間は何事にも慣れる力がある。日本人でなくても日本に永く住めば、人の言葉を字面通りに取らず“常識的”に解釈する、行間を読む訓練がついてくる(アスペルガーでもない限りは)。日本語表現の暗号を解読することができるようになる。「またの機会に」と言われれば、「あなたが嫌いなので会いたくありません」と言われなくても相手の意を汲み、かつあえて明言化しないことで自分をも護るようになっていく。

    イギリスでも、イギリス人の特徴をつかんだ上で臨めば、それほど難しくない気がする。同じ言動から違う意味合いを読む勘も働くようになる。よく知りもしない私が怪我したと聞けば様子伺いをしてくれる人がいるとして、「“親切”を演じずにいられない心配性の人なんだな、疲れるだろうな」と思うこともあれば、これから知り合いたいと思って本心で気にかけてくれてると分かることもある。

    たまたま私が日本人なので、イギリスの直言しない・白い嘘をつく社交術が苦にならないのだろう。もっとずっとハッキリものを言う文化から来た人にはストレスになるだろうことは想像できる。

    例の顔面崩壊事故に遭ってから、街の合唱団の知り合いウェンディとアンの二人からお見舞いの訪問やカードや電話をもらって、そんなことを思った。

    テーマ : イギリス
    ジャンル : 海外情報

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    シカ

    Author:シカ
    夫のカエルとともにヨーロッパに住むシカです。シカは日本生まれですが、ここ20数年イギリス、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ドイツ、振り出しに戻る(イギリス)と流れてきました。カエルはフランス生まれです。詳しくは自己紹介ページへ。

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