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    クリスチーネ・F

    戦後の焼け野原で、坂本九の「上を向いて歩こうよ、涙がこぼれないように」と歌う声に励まされ国を再建した若者たち。インドや中国の文字通り糞味噌の貧困の中で、経済発展の野望に突き動かされる若きエリートたち。

    『クリスチーネ・F』(1981、西ドイツ)を観た時、バブル景気に浮かれる東京で置いてけぼりを喰らった少女の私は、自分の絶望とは質の違う絶望を感じた。
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    西ベルリンの中央駅ツォー(動物園)周辺で麻薬に魅入られ身を滅ぼしていく10代の群像を、デヴィッド・ボウイの "Heroes" を通奏低音に描き出す。両親が離婚し郊外の団地に母親と暮らすクリスチーネ、13歳。母親は新しい男との交際に忙しく、彼女の居場所はない。たまたま知り合った男の子デトレフのクールさに惹かれ、“同じ気持ちになりたくて”彼の使っているヘロインに手を出す。

    一回だけが癖になり、薬代のため駅頭でオヤジに声をかけ身を売るティーンに仲間入りする。普通に会社に勤め家では良き父親で週末には親戚を招いてバーベキューするような中年男が、平気で未成年者を買春するところがいかにもドイツ。10代の娘の麻薬依存が命に関わるところまで進んで初めて気づく母親の“薄さ”も、ヨーロッパの離散・複合家庭で拠り所を失った子供の危うさを表している。

    ドイツはヨーロッパの中では歴史的街並があまり残っていない国だ。戦争で徹底的に爆撃され、多くの市街地は姿形を失った。それでもどこか日本の戦後とは違う、歴史の亡霊のようなものが空気に漂っている。倒壊しても礎の揺るがない石の建物のせい? あるいは、周辺国と地続きな地理のおかげでヨーロッパ菌とでもいったものに汚染されているのだろうか。

    六本木ヒルズを歩いていると、過去からも、あらゆる脈絡からも切り離された高揚感 − 刹那的な、唯我独尊な気分になる。今の日本人が作ったもの。今の日本人が享受するもの。あとは野となれ山となれ。

    この軽さは、ドイツでは − デュッセルドルフのような戦後建築ばかりの街でさえ − 味わうことがない。感じるのは、のしかかる空の圧力、過去の蓄積の重みだ。

    クリスチーネたちは夜中、メルセデスベンツとバイエル製薬の巨大なネオンが照らす中央駅周辺の商店街を、薬代稼ぎに荒らし回る。“僕は王、君は女王、1日だけ、僕らはヒーロー”とボウイの絶叫がかぶさる。巨大な流れの中に生まれた自分の些細さを否応なく意識する子供たち、何不自由なく育っても “望まれて生まれてきた” 確信がもてずにいる子供たちの心を、鮮やかに切り取ったシーンだ。

    日本人は「祇園精舎の鐘の音」を小学校で習う。春に散る桜を眺め、お盆には精霊流し、おおよそ50年ごとに地震や戦災でなにもかも壊滅する。なにごとも永続などしない、壊れたらまた新しく作ればいい。そんな諦めと脳天気さが遺伝子レベルで刷り込まれている。だから木と紙で家を建て、自然に挑むのではなく溶け込む様式が育まれてきた。同時に、どうせ残りはしないのだからと言わんばかりの恥知らずな悪趣味も許されてきた。

    石造りのカテドラルを建て尖塔で天に挑むヨーロッパ人は、そう簡単に過去を水に流さない。そしてその恩恵と重荷を、次世代に問答無用に負わせる。

    ヨーロッパのこのどうしようもない古さ、固さ、えぐみ、重みが、日本で育った私にとって、限りなく惹かれながらも同化できない部分なのだろう。
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    テーマ : ドイツ
    ジャンル : 海外情報

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    シカ

    Author:シカ
    夫のカエルとともにヨーロッパに住むシカです。シカは日本生まれですが、ここ20数年イギリス、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ドイツ、振り出しに戻る(イギリス)と流れてきました。カエルはフランス生まれです。詳しくは自己紹介ページへ。

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