聖しこの夜

    街の合唱団に入っていることは前に書いた。ここんとこ何週間か、クリスマスの歌ばかり練習している。12月には4〜5回、公の場(福祉施設や学校、パブ、街頭)で歌うので、(大半が楽譜も読めない素人集団とはいえ)多少は体裁整えなくちゃとリーダーは頑張っている。

    私は教会で音楽をやっていたので、クリスマスといえばバッハの関連作品や伝統的な讃美歌、せいぜいヨーロッパ各地のクリスマス民謡だった。今時のクリスマス世俗曲で知ってるのといえば Wham! の Last Christmas や Band Aid の Do They Know It's Christmas、あとジョン・レノンのあれぐらい。年代が如実に表われますな。

    街の合唱団のクリスマス・レパートリーは今時もの3割、ビング・クロスビーとかのモダンクラシック3割、昔ながらのキャロル3割。この最後のカテゴリーに Silent Night が入っている。1、2、4節は普通に英語で合唱し、3節だけなぜか日本語でソロという。ソロって‥‥なんで私が⁉︎⁉︎

    私は音程はまあまあ守れるが声がよくない。低く暗く、声量もない。この隠滅な声で『聖しこの夜』を街の皆さんに披露しろと? ベツレヘムの厩(うまや)で嬰児(みどりご)が生誕しました、それがすべての始まりでした、何もかもがマズい方向へ‥‥みたいな歌になりませぬよう、皆さん念じてください。

    テーマ : イギリス
    ジャンル : 海外情報

    臨床心理士って何と訊かれた

    臨床心理士というのは、おいそれと取れる資格ではない。特定大学の特定学科で修士課程を了えて、行った大学と学科によってはさらに有給の臨床経験と論文、そして審査となる。資格取得後も5年ごとに再審査がある。

    なんとかセラピストとかうんちゃらヒーラーとかの自称すりゃいいだけの職業名とはまったく別のもんである。

    サイコロジストという言葉、国によって求められる資質も経験も学識もえらく違うので、誤解されやすい。日本の臨床心理士はイギリスでいう clinical psychologist に近いようだ(社会的位置付けも含め)。スペインなんかでは結構ナンチャッテな部分があり、学部程度の勉強でなれるらしい。

    その差は、イギリスの plumber とドイツの配管技師の違いに似ている。イギリスの配管工とは、近所の取り柄の少ない兄ちゃんが「おいらだってトイレの故障ぐらい直せるさっ」と看板出したもの。ドイツのそれは、15やそこらから配管の親方(マイスター)に弟子入り(アプレンティスシップ)して技を磨いた専門家である。

    15やそこらの少年少女がなぜ「私はトイレ詰り解消の奥義を極めたい」と思うのか、そこんところは突っ込まないでほしい。

    そんな国別事情まで知らなかった私。夫の最初の奥さんがスペインでサイコロジストやってたと聞いて、私の日本のかーちゃんもだよと言ったために、夫は私の母について長い間誤解していた。
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    Love

    Love has no limits or conditions. For the recipient, there is no such thing as too much love. On the other hand love is never available on demand. Only the giver knows whether there is any to give. Again it is not a question of choice but of availability. Wanting or needing it when it isn't there hurts both parties deeply.

    大義名分

    バルセロナの友だちの話。知りあったのは10年ほど前だ。私より少し若いぐらいだろうか。彼女は芸術家、彼は古物商、二人とも人懐こくリベラルで、惚れあっていて、感じのよい夫婦だった。

    もとは彼女の方が友だちで、彼はその配偶者として知りあったのではあったけど、私はどちらも好きだった。彼女が描いた彼の肖像画があって、道化師の姿をした考え深い少年のような印象がとても愛おしかった。

    長引くスペインの不況で彼の店が倒産したという話は聞いていた。5年ほど前だろうか。彼女の作品の売り上げの方も鳴かず飛ばずのようだった。ある時期から、フェイスブック上で彼の政治的な投稿が目立ち始めた。カタルーニャ独立運動に肩入れしていて、だんだん過激になっていく。彼のページでは、剽軽で穏やかな人柄からは想像しにくいプロパガンダが踊り始めた。

    いつの間にか、彼は私の友だちリストから消えていた。昨年ごろ、彼女から、離婚したと言ってきた。あの永遠の少年が瞳をイデオロギーに曇らせ、一点しか見なくなって、笑わなくなった時‥‥彼女は、彼を見失ってしまったのだろう。

    抱えきれない重荷が覆いかぶさってきた時、政治や思想の大義名分にすり替える人を見たのは、彼が初めてでも最後でもない。私にはできない芸当なので、あっぱれとすら感じる。私は、自分一人の、誰の所為でも誰のためでもない苦しみを、そういうものとしてしか見ることができない。

    テーマ : スペイン
    ジャンル : 海外情報

    フランス人

    「フランス人ったってよく知ってるのはあなたの家族以外じゃ片手で数えられるぐらいだし、フランスに住んでもいないし‥‥だから全然一般化はできないんだけど」

    ふんふんと夫は聴いている。

    「フランス人の表面に軽く触れただけの私の印象を言えば、理屈っぽくて皮肉屋で話が面白いけど、温かみは‥‥フランス人と聞いて連想する言葉じゃないな」

    「それは当たってると思うよ」と夫。
    フランス人らしからぬ温かな微笑みを浮かべている。

    「自己中ってか、えらく自分に興味もってるよね。自分のイメージとか自分の偉さとか自分の問題とか。必ずしも自信家ってわけじゃないのに、傲慢」

    「よく見てるね。確かに、フランス人はヨーロッパでもずばぬけて自己中だな」

    --------------
    昔、クリエイティブ・リスニングという技術の講義を一回だけ受けたことがある。かいつまんで言えば、相手が話している間、一切の考えを止めてひたすら傾聴するということのようだ。

    これが言うは易しで、ふつう私たちは相手が話している間、常に自分の反応を考えているものだ。相手の言っていることを自分の経験や知識に参照し、自分の意見や自分の反論を組み立てている。しかし実はその作業自体に心の半分がかかりきりになるので、相手の話は半分しか聴こえていない。

    この“自分”を一旦、といっても誰かが話している一かたまりの時間なんて長くて数分なのだが、とにかくその数分間停止して、“相手”に明け渡してみましょうというのが、クリエイティブ・リスニングの主旨らしかった。
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    これ、実はフランス人のもっとも苦手な技なのではないか(私も得意ではない)。フランス人同士電話で話していると、5分間に最低5回は「最後まで言わせて」「聞いて」に類することを言い合っている。それだけ互いに相手の話の腰を折っているわけだ。フランス人に何か言うと、間髪入れずなんか気が利いたようなコメントが返ってくる。それだけ、こっちが話してる間に自説を準備してるってことだ。

    「あなたは温かいし、時々はちゃんと話聞いてるし、あんまりフランス人らしくないのかな?」

    「君と暮らしていてフランスっぽさが抜けてきたんだ。まえは、けっこう冷たくて怒りっぽかったんだよ」

    テーマ : フランス
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    泥沼のように明瞭

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    英大衆紙 Daily Mail の読者投稿欄に載ったこの手紙、面白いので訳しておく。

     “中東情勢について頭こんぐらかってません? 説明してあげましょう。
     我々は、イラク政府による対イスラム国抗争を支援しています。我々はイスラム国が嫌いですが、イスラム国はサウジアラビアに支援されており、我々はサウジアラビアは好きなのです。
     我々はシリアのアサド大統領が嫌いです。なので反アサド抗争は支援していますが、アサド相手に戦っているイスラム国は嫌いです。
     我々はイランが嫌いですが、イランはイラク政府の反イスラム国戦線を支援しています。つまり、我々の味方の一部は我々の敵の味方をし、敵の一部は別の敵相手に戦っているわけです。我々としては別の敵が負けてほしいのですが、この敵と戦っている敵にも勝ってほしくはないのです。
     我々が倒したいと思っている人たちが倒れたら、もっとイヤな人たちに取って代わられるかもしれません。そしてですね、それもこれも、我々が某国を、我々が侵攻するまではそこに居なかったテロリストを追放するべく、侵攻したことから始まったのです。お分かり?”

    テーマ : 中東
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    ある・ない

    白は、白という存在なのか、色の不在にすぎないのか。
    闇は、闇という実体なのか、光の不在にすぎないのか。
    悪は、悪という実体なのか、善の不在でしかないのか。

    実体であるネガティブと、逆の不在でしかないネガティブがある気がする。

    たとえば味のないものが不味いとは限らない。それとは別に(私の好きな)マーマイトのようにはっきり不味い味というものが存在する。

    じゃあ孤独は? 愛の不在か、孤独という実体か。愛は、一度もあったことがなければ、ないままで済むもの。一度でもあったのを失うと、その不在は耐えがたく辛いもの。

    2000年に日本で起きたルーシー・ブラックマンさん事件を英 Times 紙東京特派員だった著者が詳説したを読んで、そんなことを考えている。連続強姦殺人犯織原城二こと金聖鐘‥‥あれはいったい何者だったのだろう、と著者は問いかける。オバラ=キムは徹底的にカメラを避け、20歳前後以降の写真は一枚もない。61回にわたる公判で見えてきた人物像は、空洞だった。この男の悪はそれ自体の形はなく、それでいて被害者と被害者の周囲の人々それぞれの限りない痛み、苦しみ、憎しみに姿を変えていく。そういう、愛と善の完全な不在という形の悪なのだと示唆する。

    日本に長く住んで日本社会の裏表をよく知り、しかしあくまでも外国人として鋭く考察しながら礼節を失わない筆致が素晴らしい。邦訳も出ているので時間のある方はどうぞ。

    テーマ : イギリス
    ジャンル : 海外情報

    本当のぱたぽん

    木の下にすわったまりーちゃんが、ひつじのぱたぽんに話しかけます。

    「ぱたぽん、おまえはいつか女の子を一匹うむでしょう。そうしたら、その子をフーゾクに売って、好きなものが何でも買える……」とまりーちゃん。
    すると、ぱたぽんは「子供が一匹できるでしょう。そうしたら緑の原っぱに住むでしょう」と話します。
    まりーちゃんは再び「ぱたぽん、おまえはいつか子供を二匹うむでしょう……」。

    こうして二人は羊の子供の数が増えるたび、その子を売ってどんなことができるかという夢を語り合います。新しい靴、青い花のついた赤い帽子、お祭りのメリーゴーランド、ブランドのロゴがでかでかついた鞄、やーさんが乗るタイプの黒塗りのベンツ、趣味のわるい御殿……とまりーちゃんが話せば、ぱたぽんはひなぎくの花が咲き乱れる原っぱに住むことに思いを馳せます。

    けっきょくぱたぽんは、死ぬまで一匹も、子供をうみませんでした。そうして優しいカエルさんと黒い猫と一緒に暮らしましたとさ。

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    送りつけ商法

    コンシェルジェから“荷物が届いてますよ”通知が来た。夫も私も通販頼んだ記憶はないし、贈り物もらうあてもない。❔顔で取りに行った夫、❓顔で戻ってきた。大きな箱の中身は赤ワイン1ダース。夫の好きなリオハやボルドーでも、私の買いそうな安酒でもない。“秋のセレクション”って‥‥注文してないし。

    “注文してない商品が届いたら”で検索してみたところ、政府のサイトにそのままの文言で載っていた。「注文してない商品を店が勝手に送りつけてきた場合、贈り物とみなし消費して結構です。料金を請求された場合、支払い義務はありません」。

    「ふう〜ん。こう書いてあるよ」と見せに行ったら、夫は俄然機嫌が良くなった。「あの店は前に買った時のクレジットカード番号持ってるから、どうせ後日、引き落としがあるだろう。その段階でガツンと言ってやるから大丈夫。そのワイン飲んでいいからね」(ニッコニコ)。

    法は誰の味方か調べるだけは調べたが、実際の攻防はヘタレの私には無理なので夫に任せて、秋のセレクションを堪能中。さっき夫が普段に輪をかけて流暢な英語で電話していた相手は奴等らしい。

    テーマ : イギリス
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    プロフィール

    シカ

    Author:シカ
    夫のカエルとともにヨーロッパに住むシカです。シカは日本生まれですが、ここ20数年イギリス、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ドイツ、振り出しに戻る(イギリス)と流れてきました。カエルはフランス生まれです。詳しくは自己紹介ページへ。

    引用・転載は原則として歓迎ですが、事前にご一報ください。どのような論旨・目的での引用・転載か、把握しておきたく存じます。

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