女性の自己実現

    「マッサンのウィスキーの夢は私の夢」とエリーはしつこく繰り返す。史実でも、リタは竹鶴政孝に「日本へ行ってあなたの夢の実現を手伝いたい」と言ったらしい。1920年代、今から100年近く昔には、ヨーロッパでも女性はそういう間接的な、男を介した自己実現しか思いつくことすら許されなかったのだろう。

    ノルウェーでお世話になった牧師の妻が、「私は小さい頃から牧師夫人になりたかった」と言った。ええっ? 世界一性平等が進んだ地域の女性の口から出る言葉とは思えなかった。もっとも彼女は農家の娘で、高校を出た後、食いっぱぐれない仕事として看護職を選び勤め先の病院で患者だった将来の夫と出会ったのだった。

    彼は法律を学んでいた時に、勉強のストレスで初めての癲癇発作を起こし療養していた。あんまり成績もよくなかったことだし、進路を変えて牧師になろうかと思い始めていた。彼女にすればツボにはまったわけだ。じゃあ、彼を励まして、牧師に仕立てよう。これから神学校に行く間は、私が看護婦の収入で彼を支えるわ。

    立派といえば立派だ。というか、エリーを地でいっている。私が腑に落ちなかったのは、なんでわざわざそんな回りくどい方法を選んだのかという点。自分が牧師になりゃ済む話じゃないか。

    『マッサン』の話ばかりで申し訳ないけど、流産し今後も出産が望めないと分かったエリーが、“愛する人の子を産めない”悲しみにうちひしがれているという感想が多いのを目にした。なんか違う‥‥。経緯は違うにせよ子をもつ可能性を断たれた私は、その慟哭が“自分のかけらをこの世に残すことができない”せいだと自覚していた。母性だの夫のためだのと美化する必要のない、生物として最も根源的な欲求、遺伝子の叫びだ。

    女が生き、働き、愛すのは、結果的に世や家や会社や男のためになるとしても、もともと彼女自身の生命の発露だ。『マッサン』から100年後の今、もっともっと自分の動機に正直になっていいと思う。
    プロフィール

    シカ

    Author:シカ
    夫のカエルとともにヨーロッパに住むシカです。シカは日本生まれですが、ここ20数年イギリス、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ドイツ、振り出しに戻る(イギリス)と流れてきました。カエルはフランス生まれです。詳しくは自己紹介ページへ。

    引用・転載は原則として歓迎ですが、事前にご一報ください。どのような論旨・目的での引用・転載か、把握しておきたく存じます。

    最新記事
    最新コメント
    カレンダー
    プルダウン 降順 昇順 年別

    11月 | 2014年12月 | 01月
    - 1 2 3 4 5 6
    7 8 9 10 11 12 13
    14 15 16 17 18 19 20
    21 22 23 24 25 26 27
    28 29 30 31 - - -


    カテゴリ
    メールフォーム

    名前:
    メール:
    件名:
    本文:

    リンク
    フリーエリア
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR