悪の陳腐さ

    この間書いた“平凡の偉大さ”の反語のようだが、昨日『ハンナ・アーレント』を観てしまったのでしかたがない。アーレントはアイヒマン裁判を傍聴し、このナチス高官が悪魔やら死の大天使などといったスゴいものではなく、ただの小心な小男、考える力を失った小役人であると報告した。

    日頃は悪人でもなんでもない、妻の誕生日に花束を買ったりするような普通の市井の人々が、思考する能力と権利を放棄することで凶器と化す。飼い主にけしかけられたドーベルマン、いじめっ子に加担する他の子たち、社内の誰か一人を血祭りにあげて不祥事をもみ消す会社‥‥。悪の歯車となることでたいした報酬が得られるわけでもない。得られるとしたら、“安泰”と“社会的受容”の幻想だけだ。つまり“全体”の内側に留まろうとする希求だ。

    住んでみた感想として、日本人とドイツ人には他の国民に比べてこの希求がかなり強い。

    全体主義がどうやって個々の考える力を奪うのか、そのからくりがわかれば希望も見えてくるかもしれない。どうも、ヒトラーにしろ毛沢東にしろ秋元康にしろ、全体主義のリーダーとなる人々のカリスマ性は、異常な自己愛に支えられたものに見える。平凡であることを受け容れない貪欲な自己愛は危険だ。その自己愛に能力が加われば本当に危険だ。しかしその人一人でできる悪の質量は限られている。そこで“ボス犬”“飼い主”“いじめっ子”となって他のみんなの思考能力を止める。そのやり方、教えてほしいなぁ。私もやってみたいしぃ。

    集団の中で誰か一人(または一群れ)だけが非凡で、あと全員が陳腐となる。こうなってると安心なのよね〜。あとは発言小町の“常識”でも新興宗教でも民族浄化でも、ざぁっと流せばよい‥‥。
    プロフィール

    シカ

    Author:シカ
    夫のカエルとともにヨーロッパに住むシカです。シカは日本生まれですが、ここ20数年イギリス、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ドイツ、振り出しに戻る(イギリス)と流れてきました。カエルはフランス生まれです。詳しくは自己紹介ページへ。

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