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    インドの特権階級

    毎年恒例のスイカ・パーティーをした。うちの中庭にご近所さんが集まって午後いっぱい、無垢なスイカを危険なテキーラに浸したフルーツポンチを主菜に、手まり寿司(日本人提供)、アドボ(フィリピーナ提供)、ハモンイベリコ(ほぼスペイン人提供)、フロマージュ(フランス人提供)などなど楽しんだ。

    ご近所さんらは、驚くに及ばずいろんな国から来ている。中の一人ディアはインド人エリートで、30代にして大手銀行の重役。裕福な家庭に生まれシンガポールとインドで育ち、ケンブリッジを出て、同窓生で同じくインド人エリートのアビシェクと結婚した。

    二人の間には珠のような女の子アミが生まれ、順風満帆の船出に見えた。しかしイギリスでは、高給取りとはいえ貴族ではない彼らには、インドで当たり前だったような大勢の使用人はいない。仕事と育児にてんてこ舞いの日々、それぞれ王女王子のように育てられた若夫婦はエゴがぶつかり合い、あっという間に破綻してしまった。娘の窮地を助けようとインドからディアのお母さんが頻繁にやって来ては長逗留していたのも、状況を悪化させた一因のようだ。

    知り合った頃まだ0歳だったアミはもうじき4歳になる。赤ちゃんの頃は朗らかで手がかからず、パブでもレストランでも天使のように眠っていた子が、両親の不和と別離、出て行った父親への思慕の中で、むずかり屋で我儘で人見知りの激しい、悲しい女の子に育ってしまった。

    無理もない。お母さんのディアは早朝アミを保育園に送ってからはストレスマックスの職場で一日を過ごす。アミはインド人のナニーが保育園で迎えて家に連れ帰り、夕食を食べさせ、8時ごろ帰宅するディアに引き継ぐ。日中ずっと他人の中で我慢していたアミは、疲れ切ったディアにべったりギャーギャー甘える。罪悪感も手伝って、ディアは娘を叱ることもなく、ただ泣かせ、機嫌をとる。

    私はディアとそれほど親しいわけではないが、その辺の事情は、なんせgated developmentという小宇宙を成すご近所なので、共通の友人から筒抜けだ。

    「アミはこの頃どう? ちょっとは落ち着いてきた?」
    私のこの訊き方が下手くそだったのだろう。
    「なんのこと?」
    しらばっくれるディア。そこでお茶を濁せばいいものを、テキーラスイカのせいで私は続けてしまった。
    「ううん、この前会った時、ちょっとご機嫌斜めかなと思ったんで。だって赤ちゃんの時はめっちゃご機嫌のアミだったじゃない?」
    「アミは、ず〜っと手のかからない大人しい子よ。周りの気を惹こうなんて全然しないし」。

    ここまで事実と正反対の主張を堂々とする気位の高さには、尻尾を巻いて引き下がるしかない。ただの近所のオバサンでしかないアンタに、私のプライバシーを詮索なんてさせるわけないでしょ。まあそういうことだろう。

    余計なことを訊いた私が悪いのではある。ただ、ディアの語気に、なんだか心地の悪い階級意識を感じてしまった。

    私はディアに、日本での自分の家系や生育環境は話したことがないが、逆にディアとアビシェクからは直接聞かされている。なんでかと考えると、明治以降の日本では、天皇か徳川の系統でもない限り、家系なんてものはあんまり意味がないので意識もしないが、インドではものすごく重要だ。生育環境にしても、単に金持ちなら日本でもひけらかす人は多いが、それ以外の特殊な環境は、ワザワザ言うようなことではない。親がどうあれ、本人がうまくいってるかどうかが重要なので。

    ディアの場合は、もちろん彼女自身の努力と才覚で今の地位を築いたのではあるけど、もともとインドで超お嬢でなければ、インターナショナルスクール→ケンブリッジ→エトセトラというコースのお膳立てはなかっただろう。

    ディアとお喋りしていて、ヨーロッパの大人であれば階級問わずフツーに通ってきたであろう愚かな失敗やヤバい経験を、何一つ知らないことに驚く。変ちきりんなバイトとか、マリファナがらみの話とか、こんぐらかった異性関係とか。それが良い事とは思わないけど、道を踏み外すのも人生の滋味じゃないのかな。間違いであっても、犯さないまま想像するよりやっちまって反省する方が、心が豊かになるような気がするって、負け惜しみか。たぶん負け惜しみだ。

    発展途上国(という表現に問題を孕むが)の特権階級の“特権”ぶりは、先進国(同上)の私たちの想像を超えたものだ。日本では、そこらのサラリーマンの娘だってロイヤルビッチ佳子さま同様にイギリス留学ぐらいできるし、したからって別に未来が開けるわけでもない。インドでは、ムンバイのゴミ山で売れるモノを拾っている子供は、どんなに頭が良くたってケンブリッジになぞ行けはしない。それだけに、インドで特権階級に生まれた人の選民意識には峻烈なものがある。

    というのは全部、インドを知らない私の、ただの仮説。なんかそんな感じがするので、もっと知りたい、理解したいと猫みたいな好奇心をそそられてしまったのだ。
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    性差別の昨日今日 (Prime Suspect)

    今夜夫となんとなく観ていたのが、1990年代に一世を風靡した刑事ドラマシリーズ Prime Suspect。女性刑事ジェーン・テニソンが、警察内部での女性蔑視と苦闘し、女としての幸せを犠牲にしても、弱者を蹂躙する殺人事件を解決していく。イギリス刑事ものの必ずしもハッピーエンドでない特徴を踏襲している。

    警察の男たちによるテニソンいびりがあまりに酷いので、夫は「ちょっと誇張しすぎじゃないの」と言う。「いや、今から30年近く前、しかも超男性社会の軍隊や警察では、あんなもんだっただろう」と私。日本ではおそらく今でも、警察はおろかフツーの職場でもそうだけどね、とまでは思いはしたが言わなかった。

    現実の受け止め方が、男女でかなり違うんだなあ。

    1980年代後半、私は出版社で、編集長にろくな訓練もされないまま即戦力として3年間馬車馬のように働いた。ところが男性の新人が入ってくると、この若者に編集長は手取り足取りべったりになり、私なんて最初から居なかったみたいな扱いになった。

    その少し前、母は教会関係の職場で男性上司にレイプ寸前のセクハラを受けた末に不当解雇された。それを告発しようとしたところ、聖職者である教団上部の男どもがつるんで加害者の肩をもった。当時ちょうど東京教区長になろうとしていた父に「お前のかみさんを黙らせれられないなら、あの話は白紙だ」と圧力をかけてきて、父は自分の名誉欲のためにあっさり妻を売り払った。

    私が9歳から15歳までの間、3件にわたり別々の男どもによって虐待されたことには言及するまでもない。

    男性社会とはじつに子供じみていながら凄惨で醜悪なものだ。

    だけど男である夫には、その暴虐をまともに喰らった体験がないわけで、テニソンの苦境にも感情移入できないのだろう。ずいぶん共感力があり、人生の機微を知る人なのに、こと性差別に関しては、男であるというバカの壁は超えられないということか。

    広告うるさいので更新のための更新

    胎児

    この頃ちょっと調子悪くて、ウツウツ気分のまま夫と一緒に友達と飲みに行った。いつものように喋り食べ飲み‥‥でもダメ気味なのはバレていて、「なんか今日無口だね」「それ、美味しくないの?」などと友達に言い当てられ、まぁしゃーねぇかとやり過ごしていた。その時、夫の携帯に着信音。次の瞬間、夫は画面の写真をみんなに見せて笑っていた。

    息子夫妻の、胎児の超音波画像。半分人間、半分液体のグロテスクな生き物。

    笑い声、話の続き、夫の元気な様子‥‥。私は夫に小声で「そういうの、二度と私に見せないで」と言った。夫は「あ、もちろん」と言って電話をしまった。

    人間は、どこまで愚かなんだろう。自分たちの胎児の写真に他人が興味をもつと思う親バカ、おいらの遺伝子の発達ぶり見て見てと一瞬でも思う爺バカ、友だちの孫ならどんな物体でもカワイーと言わなくちゃと思う世間体バカ、自分に関係ない胎児なんて気持ち悪いと露骨に言ってしまう継母バカ。

    どいつもこいつも無神経の骨頂。

    正直言って、ウツの波の最中に見たい画像ではなかった。マイナス3だった気分が7に下がった。仕方ないので今朝、もっといいお薬はありませんかと訊きにかかりつけ医に行った。それではこれをやってみましょうという新しい薬を来週から試行する。

    ロンドンブリッジ

    テロなんて、今じゃ普通の出来事になっちゃって。息を止めて生活するわけにいかないし、生活を一時停止にもできないから、3日も経つと世の中は何事もなかったかのように動き始める。

    地震みたいなもの。でも地震ほどの破壊の痕も残らない‥‥。って、違うんだけどね。本質的に。地震で原子力発電所が壊れ将来的に累計犠牲者数がテロをはるかに上回る場合を考える。そもそも原子力発電所をやってた輩の責任はどーよってなるけど、ワザワザ、数十万人殺めようと思ってやってたわけでもないんだよね。お金欲しかっただけで。

    その点、テロは戦争と同じで、殺すことそのものが目的なので、本当は同じじゃないのだ。

    テロを誘引したのが「お金欲しかっただけ」で他国を蹂躙し続けた西側先進国のエゴであることは、今日のところは考えないことにして。

    ロンドンブリッジはうちの最寄りターミナル駅だし、バラーマーケットにはたまに行くので、「いつもの」「普通の」テロよりもっと悲しくなった。テロの翌朝、夫はロンドンブリッジ駅乗り換えで空港へ行き中国出張に出かけて行った。

    サンセバスティアンに行ってきました

    久々にサンセバスティアンに行ってきた。スペイン最北東部バスク地方、フランス国境まで車で20分。美食で知られる小綺麗な街だ。日本でもこの頃知名度が上がってきたようで、視察に訪れた食のプロとおぼしき日本人もちらほら見かける。

    今回はロンドンの友達を連れての週末旅行。ヘロヘロに疲れるまで食べて飲んで笑ってきた。

    ciderteam.jpg
    林檎酒を注いでもらったんだけど…
    silly.jpg
    ほとんど入ってない
    fishface.jpg
    気を取り直してみんなにも注いであげる
    seafood.jpg
    ご褒美にごはんを食べる
    sunset.jpg
    そして記念撮影。
    プロフィール

    シカ

    Author:シカ
    夫のカエルとともにヨーロッパに住むシカです。シカは日本生まれですが、ここ20数年イギリス、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ドイツ、振り出しに戻る(イギリス)と流れてきました。カエルはフランス生まれです。詳しくは自己紹介ページへ。

    引用・転載は原則として歓迎ですが、事前にご一報ください。どのような論旨・目的での引用・転載か、把握しておきたく存じます。

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